M&Aの相談を受けていて、「この会社は、このままの形では売りにくい」と感じる場面があります。
多くの場合、原因は事業そのものではありません。会社という器の中に、性質の異なるものが混ざっていることが問題なのです。
よくある3つのパターン
事業と資産が混在している
本業は堅実に利益を出しているのに、会社が不動産を保有しているために譲渡価格が跳ね上がり、買い手が手を出せなくなるケースです。
買い手が欲しいのは事業であって、不動産ではありません。それでも株式譲渡である以上、不動産ごと引き取ることになります。
不採算部門が足を引っ張る
複数の事業を持つ会社で、一方が赤字を出しているために全体の収益力が低く見えるケースです。
黒字事業だけを見れば十分に魅力的でも、決算書の数字は合算されたものです。買い手は赤字部門の立て直しまで背負うことになるため、評価は厳しくなります。
事業ごとに適した相手が違う
3つの事業を持っていて、それぞれに関心を示す買い手が別の会社である、というケースもあります。まとめて1社に譲渡するより、分けたほうが総額は大きくなります。
切り出すという発想
これらはいずれも、会社分割や事業譲渡によって事業を切り出すことで、解決しうる問題です。
たとえば新設分割であれば、新たに設立する会社に本業を承継させ、その株式を譲渡します。不動産は元の法人に残せますし、不採算部門を切り離すこともできます。
事業譲渡と異なり、契約関係を個別に移転し直す必要が原則ないため、取引先が多い事業でも実務負担を抑えられます。
① 新設分割
元の法人に残せるもの
② 株式の譲渡
契約関係を個別に移し直す必要は原則ありません(事業譲渡との違い)
※ 手続きと税金の個別の扱いは、弁護士・税理士などの専門家にご確認ください
20年前に実行したこと
私自身、20年ほど前に、自社の売上の相当部分を占めていた収益事業を新設分割で切り出し、譲渡したことがあります。
設立日と同日に取締役会決議を行うという、かなりタイトなスケジュールでした。当時、社外取締役から「なぜ儲かっている事業を売るのか」と問われたことを、今でも覚えています。
答えは単純で、その事業は他社の傘下にあったほうが伸びると判断したからです。自社に置いておくより、買い手の販売網に乗せたほうが、事業としても従業員にとっても良い結果になると考えました。
実務上の勘所
会社分割を伴うM&Aで、実際につまずきやすいのは次の点です。
債権者保護手続に時間がかかります。異議を述べられる債権者がいる場合は、官報公告と、原則として個別催告が必要で、異議の期間として最低でも1か月を要します(公告の方法によっては、個別催告を省略できる場合があります)。スケジュールを引くときは、ここを最初に押さえます。
労働契約承継法に基づく通知が必要です。通知の前には、承継される事業に従事する従業員との協議(いわゆる5条協議)も行います。この協議と通知のタイミングが、社内へのM&A開示のタイミングを実質的に決めてしまいます。
許認可の再取得が必要な場合があります。人材派遣、古物商など、許認可が事業の前提になっている場合、新会社で取り直せるかを先に確認しないと、切り出した瞬間に事業が止まります。建設業のように、事前の認可を受けて地位を承継できる許認可もありますので、手続きと期間を早めに確かめます。
税制適格要件を満たすかどうかで、税負担が大きく変わります。適格分割に該当すれば資産の移転に課税されませんが、要件を外すと譲渡益に課税されます。分割の後に新会社の株式を譲渡する予定がある場合は、支配関係の継続の見込みを満たさず、非適格となるのが一般的です。スキームを決める前に、税理士の確認が必要です。
早く手を打つほど効きます
これらの手続きは、どれも時間を要します。M&Aの交渉が始まってから組織再編を検討しても、間に合わないことがほとんどです。
「売りにくい形になっているかもしれない」と感じた時点で、一度整理してみる価値があります。実際に売却するかどうかは、その後で決めれば構いません。
当社では、スキームの立案から実行の主導までを担い、弁護士・公認会計士・司法書士と連携して進めます。この部分はFA・コンサルティング業務として、着手金と月額報酬をいただく形になります。仲介業務とは報酬体系を分けておりますので、どちらの形が適しているかを含めてご相談ください。
