デューデリジェンス(DD)で見つかる問題のうち、価格や条件に直接響くことが多いのが、帳簿に載っていない債務(簿外債務)と、払われていない残業代です。
どちらも、経営者ご自身が「問題だ」と意識していないまま残っていることが少なくありません。
簿外債務とは
簿外債務とは、決算書に計上されていないものの、会社が将来支払う義務を負っているものを指します。
DDで見つかりやすいのは、次のような項目です。
- 従業員の退職金(規程があるのに、引当金を計上していない)
- 未払いの残業代や、社会保険の加入漏れによる保険料
- 取引先や関係会社の借入に対する保証
- リース契約の残りの支払い
- 返品や保証工事など、売った後に発生する費用
- 係争中の案件や、クレームへの対応の費用
このうち、まだ確定していないものの、条件によって支払いが生じるものは「偶発債務」と呼ばれます。
買い手は、どう扱うのか
簿外債務が見つかると、買い手は次のいずれかの対応を求めることが一般的です。
- 価格から差し引く:見込まれる支払いの額を、譲渡価格から減額する
- 契約で手当てする:表明保証と補償の条項で、将来の支払いを売り手が負担する
- クロージングまでに解消してもらう:前提条件として、譲渡の前に解消することを求める
金額が大きい場合や、全体の額が見積もれない場合は、交渉そのものが止まることもあります。
未払残業代は、過去にさかのぼります
人事のDDで重点的に見られるのが、残業代です。
労働基準法では、法定の労働時間を超えた労働に対して、割増賃金を支払うことが定められています。次のような運用がある会社では、払われていない残業代が生じている可能性があります。
- 管理職として扱い、残業代を支払っていない(実態が「管理監督者」にあたらない場合)
- 固定の残業代を支払っているが、超えた分を精算していない
- 始業前の準備や、終業後の片付けを労働時間として数えていない
- 歩合や手当の扱いが、割増賃金の計算から漏れている
賃金の請求権には時効がありますが、法律の改正により、時効は5年とされ、当分の間は3年とされています。現在は、過去3年分までさかのぼって請求される可能性があり、今後、期間が延びることも考えられます。従業員の数が多い会社では、見込みの額が大きくなることがあります。
譲渡の前にできる、3つの整え方
① 自社で点検する
DDで見られる項目を、譲渡の前に自社で点検します(セルサイドDD)。退職金の規程と引当の状況、残業の記録と支払い、保証や担保の一覧、係争の有無などを整理します。
② 直せるものは、直しておく
労働時間の記録の方法や、手当の計算を見直し、今後の未払いが生じない形にしておきます。過去の分の扱いは、社会保険労務士や弁護士と相談しながら判断します。
③ 残るものは、開示しておく
すぐに解消できないものは、隠さずに買い手に伝え、契約の開示別紙に書いておきます。開示したうえで条件を話し合う方が、後で見つかるよりも、価格への影響は小さく済むことが多くあります。
進め方のご提案
簿外債務や未払残業代は、会社の価値そのものを下げるというより、買い手が安心して判断できるかどうかに関わる項目です。譲渡を検討し始めた段階で点検しておくと、交渉の主導権を保ちやすくなります。
当社では、譲渡の前の点検と、整え方の優先順位づけをお手伝いしています。労務・税務の個別の判断は、社会保険労務士・税理士・弁護士とあわせて確認されることをお勧めします。お問い合わせよりご相談ください。
