M&Aの相談で、経営者が特に悩まれるのが「従業員にいつ伝えるか」です。
この判断は、案件の成否そのものに関わります。方針を決めてから動くべき論点です。
早すぎると何が起きるか
検討段階で情報が広まると、次のことが起こりえます。
- 優秀な人材から先に離職する
- 取引先に伝わり、取引条件の見直しを求められる
- 金融機関の対応が変わる
- 交渉が決裂した場合、社内の動揺だけが残る
特に深刻なのは、交渉が成立しなかった場合です。「うちの会社は売られるらしい」という認識だけが社内に残り、その後の経営に影響します。
遅すぎると何が起きるか
一方、クロージング当日に初めて知らされた従業員は、強い不信感を持ちます。
「なぜ相談してくれなかったのか」という感情は、統合後の協力関係に影を落とします。買い手から見ても、キーパーソンの離職リスクは投資の前提を崩す要因です。
実務上の設計
一般的には、次のような段階を踏みます。
検討〜基本合意まで:オーナーと、ごく限られた役員のみ。経理資料の準備で経理担当者の協力が必要になる場合は、その方にも個別に伝えます。
デューデリジェンス期間:調査への対応で、部門長クラスの協力が必要になることがあります。「銀行対応」「監査対応」といった説明で進める場合もありますが、勘の良い人は察します。
最終契約〜クロージング:キーパーソンには、この段階で個別に伝えることが多くあります。買い手が残留を条件としている場合(キーマン条項)、本人の同意が必要になるためです。
クロージング直後:全従業員へ説明します。買い手の経営者に同席いただき、今後の方針を直接話してもらう形が望ましいところです。
誰に、いつ伝えるか(一般的な段階)
会社分割を用いる場合は、労働契約承継法による承継される従業員への事前の通知が必要で、その通知のタイミングが、実質的に開示のタイミングを決めます。※ 個別の扱いは、専門家にご確認ください
会社分割の場合は例外があります
会社分割を用いる場合、労働契約承継法により、承継される従業員への事前通知が法律上必要になります。
通知は、株主総会の日の2週間前の日の前日まで(株主総会の承認が要らない場合は、分割の契約の締結などの日から2週間を経過する日まで)に、対象となる従業員へ書面で個別に行わなければなりません。その前に、従業員との協議(いわゆる5条協議)も必要ですので、社内への開示は通知よりも早い段階で確定します。
この通知のタイミングが、実質的にM&A開示のタイミングを決めてしまいます。会社分割を伴うスキームでは、開示の設計をスケジュールの最初に組み込む必要があります。
伝え方について
伝える際に押さえたいのは、従業員が何より知りたいことに答えることです。
- 雇用は継続されるのか
- 給与や労働条件は変わるのか
- 誰が上司になるのか
- いつから何が変わるのか
決まっていないことがあっても構いません。「いつまでに決めて伝える」ということだけは伝えられます。何も伝えられない状態が、人を不安にさせます。
当社での進め方
雇用の維持や労働条件の引き継ぎについては、交渉の条件として相手先と取り決めることが可能です。最終契約に明記する形で合意するのが一般的です。
ご意向をあらかじめお聞かせいただければ、その前提で候補先を選定してまいります。開示のタイミングについても、ご相談のうえ設計いたします。
