買収の話が決まったとき、多くの経営者が安堵されます。長い交渉が終わり、契約書に署名し、決済が済みます。ここまでで相当な労力を使われています。
しかしM&Aの実務では、ここからが本番です。
私は自ら経営していた会社を譲渡した後、譲渡先グループの経営管理室長として20社を超える子会社を見てきました。そこで繰り返し目にしたのは、買収時に想定していたシナジーが、いつまでも実現しないという光景です。
なぜ想定とずれるのか
原因の多くは、統合の設計を買収後に始めることにあります。
買収前のデューデリジェンスは、リスクの洗い出しが中心になりがちです。簿外債務はないか、訴訟は抱えていないか、許認可は有効か。これらは当然必要な調査ですが、「買った後に何をするか」という設計には、ほとんど時間が割かれません。
その結果、クロージング後に初めて統合の検討が始まります。この時点で、現場はすでに動揺しています。
最初の100日で起きること
買収後の100日間は、特殊な期間です。
従業員は「自分の処遇はどうなるのか」を何より気にしています。取引先は「取引条件は変わるのか」を確認したがります。そしてこの期間に何も説明がないと、人は最悪のシナリオを想像します。
私が経験した中で、特に深刻だったのは、キーパーソンの離職でした。買収の判断材料になっていた技術者が、統合方針が示されないまま3か月を過ごし、退職を申し出たのです。
その時点で、買収価格の前提は崩れていました。
100日プランで押さえること
だからこそ、優先度の高い施策を短期集中で実行する計画が要ります。当社では次の4点を軸に組み立てています。
経営管理体制の確立
月次決算をいつまでに締めるのか。何をKPIとして見るのか。予算と実績の差異を誰がいつ確認するのか。
ここが決まっていないと、問題の発見が数か月遅れます。まず数字が見える状態を作ることが、すべての前提になります。
キーパーソンとの対話
誰が事業の中核を担っているかを特定し、早い段階で直接話をします。処遇、役割、これから何を期待しているのか。
伝えるべきことが決まっていなくても、「いつまでに決めて伝える」ということだけは伝えられます。沈黙が人を不安にさせます。
早期に成果が見える施策の実行
統合には時間がかかりますが、その間ずっと成果が見えないと、現場の納得が得られません。
仕入条件の見直し、重複業務の整理、承認プロセスの簡素化。規模は小さくても、目に見えて改善する施策を最初の3か月に置きます。
業務プロセスの可視化
どの業務に、誰が、どれだけ時間をかけているか。これを把握しないまま効率化を始めると、的外れな施策になります。
買収前から設計する
これらは、買収後に考え始めては間に合いません。
当社では、ビジネスデューデリジェンスの段階からPMIの設計に着手します。調査の目的を「リスクの発見」だけでなく「統合の設計」に置くということです。
具体的には、組織図と業務分掌を確認しながら、統合後に誰が何を担うのかを仮置きしていきます。キーパーソンの特定も、この段階で行います。
統合の設計は、買収前から始めます
調査の目的を「リスクの発見」だけでなく「統合の設計」に置きます
現場に入ります
計画書をお渡しして終わりにはいたしません。必要に応じて現場に常駐するなど、実行までご一緒します。
経営管理体制の構築も、業務プロセスの整理も、実際に手を動かす人がいなければ進みません。グループ内にエンジニア組織を持っておりますので、システムの入れ替えやAIによる自動化が必要になった場合も、外部への再委託ではなくグループ内で対応いたします。
買収を検討されている段階からご相談いただければ、統合まで見据えた形で進められます。
