「譲渡したら、すぐに引退できるのでしょうか」。あるいは反対に、「しばらくは経営に関わり続けたいのですが、可能でしょうか」。
譲渡の後の関わり方は、多くのご相談で話題になります。答えは会社ごとに異なりますが、考え方の枠組みはあります。
残る期間に、決まった長さはありません
実務では、半年から3年程度の範囲で決まることが多く見られます。数か月の引継ぎだけで退く例もあれば、代表のまま数年にわたって経営を続ける例もあります。
期間を左右するのは、主に次の3つです。
- 事業がオーナー個人にどの程度頼っているか:主要な取引先との関係、技術、採用、資金繰りが特定の方に集中しているほど、長くなります
- 後任となる方がいるか:社内に経営を任せられる方がいる、または買い手が人材を用意できる場合は、短くなります
- 買い手の方針:経営陣の続投を前提とする買い手と、早い段階で自社の人材に切り替える買い手があります
残り方には、いくつかの形があります
| 形 | 内容 |
|---|---|
| 代表として続投 | 経営の責任を引き続き負う。買い手は株主として関わる |
| 会長・取締役 | 代表は後任に譲り、取引先への紹介や助言に当たる |
| 顧問 | 役員からは退き、必要な場面で引継ぎに協力する |
株式譲渡の場合は、どの形であっても、株主は買い手に変わります。最終的な決定権は買い手に移るという点は、あらかじめ受け止めておきたいところです。
契約の前に決めておきたい5つのこと
譲渡の後に残る約束は、最終契約の中で「キーマン条項」や「ロックアップ」として定められます。期間だけを決めて、ほかを曖昧にしておくと、後で行き違いが生じやすくなります。
① 期間
いつまで残るのか。延長や短縮は、どのような場合に、誰の判断でできるのか。
② 役割と権限
何を担当し、どこまでを自分で決められるのか。人事や投資の決裁は、どこから買い手の承認が必要になるのか。
③ 報酬
残る期間の役員報酬や顧問料。譲渡の前の水準を続けるのか、役割に応じて見直すのか。
④ 早く退く場合の扱い
病気などやむを得ない事情で続けられなくなった場合と、ご自身の都合で退く場合とで、扱いを分けておきます。譲渡価格の一部を後払いとする取り決め(アーンアウト)がある場合は、その支払いにどう影響するかも確かめます。
⑤ 退いた後の制限
同じ事業を行わない約束(競業避止義務)の期間と範囲。次に何をなさりたいかが決まっている場合は、支障がないかを先に確かめておくと安心です。
期間を短くしたい場合は、譲渡の前に準備を
「早く次のことを始めたい」「体力のあるうちに引退したい」というご希望がある場合は、譲渡の前の準備が効いてきます。
- 主要な取引先を、役員や幹部の方と一緒に回り、関係を引き継いでおく
- ご自身しか分からない業務を書き出し、手順を残す
- 日々の決裁を、少しずつ幹部の方に任せていく
事業がオーナー個人に頼らずに回る状態になっていれば、買い手は長い引継ぎを求める理由が小さくなります。同時に、会社の評価も上がりやすくなります。
残る期間は、会社にとっての引継ぎの期間です
譲渡の後に残る期間は、従業員の方や取引先が、新しい体制に慣れていくための期間でもあります。前の経営者が橋渡し役を務めることで、統合の作業(PMI)は進めやすくなります。
ご自身のこれからの計画と、会社にとって必要な引継ぎの両方を踏まえて、無理のない形を一緒に考えます。譲渡後の関わり方について迷われている段階でも、ご相談いただけます。
