M&Aの仕事は、属人的になりやすい業務です。
案件の受託から資料作成、候補先への打診、交渉、契約、統合まで。一人の担当者が最初から最後まで抱える形が、業界の標準になっています。
この形には理由があります。経営者との信頼関係が案件の前提であり、担当が変わることを嫌う売り手も多いためです。
しかし、この形には限界もあります。
案件数が担当者の時間で決まる
一人が同時に扱える案件は、せいぜい3件から5件です。どれだけ優秀でも、時間には限りがあります。
つまり、会社の案件数は「優秀な担当者の人数 × 3〜5」で頭打ちになります。
そして優秀な担当者は採用が難しく、育成にも時間がかかります。結果として、成長の速度が人材の獲得速度に縛られます。
工程を分けるとどうなるか
当社ではM&A業務を8つのフェーズに分解し、それぞれに担当と標準成果物を定めています。
案件創出、案件化・受託、準備・評価、相手先探索、交渉・基本合意、デューデリジェンス、最終契約・実行、PMI。
分解すると、判断の重い工程と、手順で再現できる工程がはっきり分かれます。
受託の可否、価格の方針、交渉の押し引き。これらは経験者でなければ判断できません。
一方、業界のリサーチ、財務分析、資料の作成、資料の整理。これらは手順を定めれば、経験の浅い担当者でも質を保てます。
工程を分けると、2つに分かれます
- 判断の重い工程受託の可否、価格の方針、交渉の押し引き。経験者でなければ判断できません
- 手順で再現できる工程業界のリサーチ、財務分析、資料の作成・整理。手順を定めれば質を保てます
経験者の判断が要る工程を見極め、そこに集中していただくために、それ以外を切り出します
経験者が後者に時間を使っている状態は、機会損失です。
育成の道筋が描ける
分解のもう一つの効果は、育成の設計ができることです。
入口は資料作成と分析です。案件の構造を数字で理解した人から、相手と交渉する工程へ進みます。工程を跨ぐたびに、担える範囲が広がります。
「いつまでに何ができるようになれば、次に進めるのか」が見える状態は、採用の場面でも効きます。未経験からでも道筋が示せるためです。
業界軸を重ねる
ただし、同じ手順で進めても、妥当な価格も、当たるべき買い手も業界ごとに異なります。
そこで機能軸に加えて、担当業界を兼務で持つ設計にしています。業界知識は属人化しやすい代表格ですので、個人の頭の中に置いたままにせず、チームの資産として蓄積します。
エンジニア組織で機能した設計
この考え方は、ソフトウェア開発の現場で機能してきたものです。
工程を分けて専門特化させ、経験を積み上げる形で総合力を育てます。M&Aとソフトウェア開発は、どちらも情報を集めて構造化し、関係者の合意を積み上げて完成させる仕事です。判断の重い部分と、手順で再現できる部分が明確に分かれている点も共通しています。
属人性を否定するものではありません
誤解されやすい点ですが、この分解は属人性を否定するためのものではありません。
経験者の判断が要る工程を見極め、そこに集中していただくために、それ以外を切り出しているのです。
組織設計の詳細は採用情報のページに掲載しています。
